Humanities and Social Sciences Researchers

経済開発へ新たなアプローチを

人文社会科学

途上国の開発政策問題に取り組む

 「無料の蚊帳を配給することがマラリアの流行を減少させることにつながるのか?」「貧困層の人々に生活保護としてマイクロクレジットを融資することはどのような影響があるのか?」「情報介入は農家の新しい農業の適用に影響を与えるのか?」といった、経済学者や政策立案者が明らかにしたい問題を扱っています。開発途上国の農村部に対してフィールドワークや家計調査を行い、政策やプログラムが農村家計の厚生や行動に及ぼす影響を分析し、統計的因果推論に基づくアプローチでこの問題に取り組んでいます。
 そのなかでも、最近では「農業における化学肥料の過剰投入の抑制と有機肥料の効率的な推進方法」について研究を行っています。国際連合食糧農業機関(FAO)によれば、アジア諸国の多くで化学肥料の過剰な使用が確認されています。そうした化学肥料の濫用は土壌劣化や水質汚濁、生物多様性の喪失などの環境の損傷につながるため、化学肥料と有機肥料の組み合わせを適用し、環境への負担を軽減することが推奨されています。しかし農家は化学肥料を優先する傾向にあり、有機肥料の導入率が向上し辛い現状があります。これに対し、有機肥料の効果的な推進方法を調査しました。

「情報介入」という資源の可能性

 農作物の価格が下がればその需要は向上するであろうという単純明快な理由から、農家の意識改革のために助成金制度が政策として適用されるケースがこれまで多く見受けられました。しかし、特に大きな予算不足を抱えた開発途上国にとって、この助成金制度は限られた財政をさらに圧迫することに他なりません。また、助成金の効果を得るためには、最適な金額を予測し設定する必要がありますが、この予測は非常に困難なものとされています。
この問題点の多い助成金制度に代わる有効な手段を探るため、私は心理学に基づいた観点からより低コストで実施可能な方法を設計し、その効果を確かめるための調査をしました。心理学的な理論では、個人の判断は自己完結でなされるものではなく、家族や同僚、情報源などの周囲の環境に大きく影響されます。この理論に基づき、私はあるフィールド実験を行いました。実験では、ある動画を無作為に1287人の茶生産農家に見せ、視聴後の行動の変化を観測しました。動画には同業者が有機肥料を導入した様子やその成果が映されています。その結果、動画を見た農家の有機肥料の使用量が動画を見なかった農家と比べ8%上がった、というデータが出ました。これは国にとって非常に負担が大きいとされる、作物の価格の50%の助成金政策の、約3分の1の効果に相当します。研究の成果は、農家の意識改革のための実現・持続可能で安価な手法として政策立案者に提案され、SDGsにおける飢餓をなくすための運動に貢献しています。

複雑化する社会問題の解決のために

 貧困、農業汚染、気候変動などの様々な難題に直面している現代社会では、これらの諸問題を解決するために、学際的な共同研究が必要とされています。そういった意味で、広島大学の人間社会科学研究科の再編は様々な分野の専門家が協働する良い機会となるでしょう。特に私の取り扱う開発途上国の開発政策の研究では、持続可能な農村開発の考察をより包括的に図式化するため、他分野からの協働が重要な役割を担うと考えられます。昨今では新型コロナウイルスの流行によりフィールドワークや家計調査が困難となっていますが、これまでに収集したデータの二次活用やオンライン実験・調査など、研究をより深めるための計画を進めています。研究をする道は決して易しいものではありませんが、私は毎日の努力が結果をもたらすのだと強く信じています。これからも日々研究を続け、世界の貧困問題に取り組んでいきます。