Humanities and Social Sciences Researchers

地球平和の鍵をにぎる中東地域を研究する

人文社会科学

多角的に中東地域をとらえる

 私は政治学と国際関係論を専門にしており、特に中東地域を主なフィールドとして、そこでの政治・軍事・安全保障問題やイスラーム政治運動などについて研究しています。研究手法はさまざまで、フィールド調査、インタビュー、文献調査といった質的研究と、自作のデータセットによる統計的研究の双方を用いています。  中東に興味を持ったのは、2001年9月11日の米国同時多発テロ事件がきっかけでした。当時私は高校3年生で進路について迷っていたのですが、この事件をテレビで見て衝撃を受けるとともに、事件の背景となるイスラームやテロ、国際政治、軍事問題に大きな関心を持ちました。  あれから20年が経ちましたが中東地域では未だに紛争が絶えず、人々が被っている悲惨な現状に胸が痛くなることも多々あります。しかし一方で、日々中東の政治や軍事情勢を観察していると、私たちが常識だと思っていることが覆されたり、考えもつかなかった世界を垣間見ることも多くて、興味深いのも事実です。私自身、博士課程の頃にシリアやレバノンに暮らした経験がありますが、日本とは全く違う世界が広がっており、とても刺激的でした。私にとって中東は、不思議な魅力とロマンをたたえた地域であるのも確かです。
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平和のためにも、軍事力の効用を学ぶ

戦争と平和の問題は私の主要な研究テーマの一つであり、特に最近は「政治・外交の手段として軍事力はいかに行使されているのか(現代外交における軍事力の効用)」という問題に取り組んでいます。  元来、戦争と平和は二元論的にハッキリと区別できるものではなく、そのあいだには広大な「グレーゾーン」が存在しています。そして、冷戦初期の段階から、米ソを中心として様々な学者・政策決定者たちが、政治的・外交的目的を達成するための手段として「グレーゾーン」において限定的な軍事力を行使する方法について研究を重ねてきました。  その後、冷戦の終焉に伴ってそうした問題に対する政策的・学術的関心はいったん低下しました。しかしながら、近年、様々な国家・組織により、限定的な武力行使が政治戦略・外交政策上の手段として用いられるケースが増えてきました。少し前だと9.11事件がそうですし、最近では中国の海洋進出やロシアのクリミア併合などもその代表的な事例です。こうした手法は「強制外交」「限定戦争」あるいは「ハイブリッド戦」などと呼ばれたりします。 「平和を欲すれば、戦争を理解せよ」。これは戦略理論の始祖とも言えるバジル・ヘンリー・リデル=ハートの言葉です。日本ではややもすれば戦争や軍事に関する研究、あるいは外交の一手段としての軍事力の行使といった考えが忌避される傾向にありますが、現実の世界を見渡せば、戦争や軍事の問題は厳然と存在しています。戦争が悪なのは間違いありませんが、そこから目を背けているだけでは何の解決にもなりません。私自身も広島大学での研究・教育活動を通じて、日本において戦争や平和に関する議論を深め、世界平和を実現するための一助になればと考えています。  この研究で苦労するのは、情報・データの収集です。戦争や軍事の研究で取り扱う事象は基本的には国家機密に属するものであり、情報やデータが容易に手に入らない場合も多いです。意図的に歪められた情報が拡散することもあるし、近年ではSNSを通じたフェイクニュースも増えてきました。加えて先行研究も限られています。地道にフィールド調査を行い、状況証拠を集め、人間関係を大切にしながら関係者へのインタビューを積み重ねることで、研究を進めています。

一生かけて探究できるテーマを見つける

 2021年度から広島大学大学院に赴任しましたが、人間社会科学研究科にはさまざまな分野の先生が在籍されており多様性を感じています。同期である科学史の先生や哲学の先生とはよく話をさせてもらうのですが、興味深いと思うことがたくさんあり、耳学問を楽しんでいます。他の先生方からも研究面で大いにも刺激をいただいています。  研究は好きなことをテーマに選び、楽しんで取り組むことが一番重要であると思っています。大学院進学を検討されているのなら、ぜひ一生かけて探究できるほどワクワクするテーマを見つけてください。

溝渕 正季
国際平和共生プログラム