Humanities and Social Sciences Researchers

人と環境との関わりを、心理学で解き明かす

人文社会科学

人と環境の関係を探究する

 私は社会心理学と教育心理学を中心に研究しており、「人は環境に対してどのような影響を及ぼし、環境からどのような影響を受けるのか」ということを專門の研究テーマにしています。ここでいう環境とは、友人や家族などの対人関係、学校や職場などの集団、さらにそれらを包括した社会や日本という国の文化までを指しています。これらは相互に影響を及ぼし合っているため、自身の研究アプローチを「自己−対人−集団−社会の重層性についての心理学検討」と表現しています。
 私の心理学との出会いは、総合科学部1年生のときに受講した浦 光博先生の心理学概論でした。「心理学とはこんなに面白く奥が深いのか」と、目が開かれたのを覚えています。心理学の理論に自分のことや周りのことを当てはめると、日々起こる出来事が整理でき、理解がしやすくなりましたし、日常のなかでふと疑問に思うことから、心理学の理論や知見を改めて考えられるようにもなりました。先生との出会いがなければ、大学の教員にもなっていなかったかもしれません。
 先生がよく話してくださった理論に「B=f(P×E)」があります。「その人の行動(Behavior)は、人(Person)と環境(Environment)を引数として関数(Function)に代入すると導き出される」というものです。人の行動はその人のパーソナリティと環境の組み合わせで決まると言い換えることができます。心理学ではその人の行動の原因をパーソナリティなどの内的要因に求めることを「基本的帰属のエラー」と呼びますが、そのように陥りがちな決めつけをこの式が食い止めてくれます。B=f(P×E)の内容や含意に惹かれたことが、今の研究テーマにつながっていると考えています。の内容や含意に惹かれたことは、今の專門の研究テーマを人と環境に決めたことに通じていると思います。

自尊感情に関する研究に取り組む

 現在取り組んでいる研究のひとつに「周囲の人の自尊感情の変化が、本人の自尊感情にどのような影響を及ぼすか」というものがあります。公立中学校の生徒に対して場面想定法を用いて「クラスメイトの自尊感情が向上した場合、本人の自尊感情にそれがどのように作用するか」をテストしました。その結果、自尊感情の低い生徒が自尊感情を自分にとってあまり重要なものではないと思っている場合、友人の自尊感情が高くなることで自分の自尊感情も高くなることが示唆されました。これは「生徒の自尊感情は周囲の他者の自尊感情の影響を受ける」ということですが、同時に「自尊感情を下げる場合があるのではないか」という問いも浮かんできます。
 そもそもこの研究は東京都をはじめとした教育現場で「自尊感情を高める教育プログラム」が導入されていることを受けて、実施したものでした。この研究により「ある一部の生徒の自尊感情が高まることで周りの生徒の自尊感情が下がることもあるのではないか」、「そもそも自尊感情が高いことは良いことなのか」といった疑問点を、研究を通して調べていきたい、そして折を見て社会に発信していきたいと思っています。

研究の中で使用された実際のアンケート

「自分の研究」を楽しみ、ともに取り組む

 以前から総合地球環境学研究所のオープンチームサイエンスに参画して專門領域の異なる人々と協働してきましたが、人間社会科学研究科の再編後は他分野との共同研究や授業協力などのお声がけも増えてきました。その中で、心理学の研究手法や視点が他分野の研究にも役立つことを実感しています。他分野とのつながりは私自身の研究にも役立ちますし、新しい研究を生むきっかけにもなると期待しています。
 先ほど紹介した自尊感情の研究は学生2名と一緒に進めてきたもので、もともとは第二著者である学生の卒論テーマでした。研究に対する学生の気持ちを大事にしながら、一緒に研究を作っていくことです。その中で、学生が研究を「自分の研究」として大切にできるよう、常に注意を払っています。研究室メンバーにいつも言っていることは、「この研究の必要性がいまひとつ分からないのですよね」と人から言われないようにすることです。そのためには、自分が面白い、意味があると思ったテーマについて周りの人からもそう思ってもらえるよう心がけることが大切になります。この点を意識して研究に取り組んでください。きっと研究が楽しくなると思います。