Humanities and Social Sciences Researchers

子どもの可能性を信じ、育ち直しを支援する

教職開発

現場での支援活動が、研究の実践となる

 私の主な研究分野は学校心理学、教育心理学で、特に専門としているのは、スクールカウンセリングや教育相談です。心理学というとさまざまな場面を設定した心理実験や調査を思い浮かべる方が多いと思いますが、私の場合は現場での実践がそれにあたります。学校不適応になる子どもの背景を理解し、どのような要素があると子どもの心理的成長が促進されるのかを明らかにできるよう、質的・量的に調査しながら研究しています。
 現在取り組んでいるテーマは「愛着に課題のある子どもを育て直すチーム支援のあり方」です。小学校のスクールカウンセラーとしてチーム支援に携わったり、中学校の教育アドバイザーに着任したりして、教育現場で実践を続けています。
 愛着とは子どもと養育者の間の情緒的な絆のことで、学校には愛着に課題があると見てとれる子どもたちが数多くいます。課題の要因となる養育環境はさまざまで、一見問題のない家庭に見えても不適切な養育があれば、愛着の成長は阻害されます。そうした子どもたちは人への信頼が低く、攻撃的だったり不登校になったりします。この問題に対して教育現場では長年個別ケアが重視されてきたのですが、近年それだけでは足りないことが分かってきました。学校の先生だけが子どもに向き合うのではなく、私のようなスクールカウンセラーや地域の方々、児童相談所や医療機関などでチームを組んで連携しながら支援を行っていきます。

子どもの心理的成長の可能性に触れる

 チーム支援で難しいのは心理学的な育て直しについて現場の先生方の理解を得ることかもしれません。愛着に課題があるのは、その子の幼少期の体験やそれまでの積み重ねの部分に欠けているものがあるからで、まずそこを補填し、癒してあげないと先に進めません。しかし先生の立場からすると、年齢なりの発達目標を達成させたい気持ちがあるので葛藤が生じます。
 またずっと庇護をしていれば良いわけではなく、適切な時期がきたら安全圏から押し出すことも必要で、細やかに様子を観察しタイミングを見計らって背中を押さねばなりません。こうしたことを30人学級を抱えた担任の先生が一人で行うのは非常に困難ですから、皆で方針を共有しケアを分担することが望ましいと考えられます。 
 私自身も、中学校に半年行った段階で不登校になった子をチームで3年間支援したことがあります。はじめはスクールカウンセラーとの週1回の面接だけを受け入れている状態でしたが、3年間かけて少しずつ学校に通えるようになり、最後には高校にも受かりました。高校では生徒会活動も行ったそうで、こういう事例に出会うと子どもの心理的成長に感動させられます。大人たちは、こうした子どもたちの可能性を信じ、それをサポートしていくことが重要です。

大阪市内の公立中学において、教員へ生徒指導や教育相談の校内研修を行う様子

教育は社会を変える強力な手段

 2020年に大学院が再編されましたが、私の研究では「脳科学ではどうなっているのだろう」「調査系の心理学の研究はあるだろうか」といった部分で専門の先生からご意見をいただきやすくなり、自身の研究領域の広がりを感じています。共通科目では平和教育の授業を担当しているのですが、そこで交流する政治学や国際関係学、文学などの様々な分野を研究する学生からも刺激をもらっています。
 私が心理学を志したのは、中学時代に同世代の少年が起こした凶悪事件がきっかけでした。「そのような状態になったのはその人の育ってきた環境や教育に影響があったのではないか」と考えたことから、心理学に興味を持つようになりました。誰も初めから凶悪犯としてこの世に生まれるわけではありません。良くも悪くも成長のなかで変わるのです。逆にいえば、子どもたちをしっかり育てることができれば、その人たちが大人になった社会は、今とは違ったものになるでしょう。教育は社会を変える強力な手段でもあるのです。教育心理学の研究を目指す方にはそのことを自覚していただけると嬉しいですね。研究的にも実践的にも常に謙虚に、さまざまな視点から吸収したものを大事にして欲しいと思います。

広島大学と香港バプテスト大学との連携協定シンポジウムにて